口の中にできた出来物は、大きくなることなく
ご飯もお水もきちんと減っていた。
正月の温泉旅行も、2月の沖縄旅行も、
ちゃんと大人しく待っててくれた。
3~4日前からウンチが見当たらず、
あんなに飲んでみた水も減っていなかった。
抱っこして水を飲ませるときだけは、噛み付きちぃも
噛み付かなかった。
特にこの2日、それすらも飲まなくなった。
体が冷えるからと食べさせてなかったきゅうりを水分補給代わりに食べさせた。
えさは寝床の中に散乱していた。
いつもえさを寝床に持ち込むときには、一箇所に固めて保管するのに、散乱していた。
ウンチが出ていないからか、お腹も張っていた。
分かってた。
分かってたのに、何もできなかった。
病院に行っても、負担になるだけで、年齢的に何もできないことがわかっていた。
だからじっと見守ろうと思っていた。
見守ることしかできなかった。
帰って声をかけても反応がなく、
寝床のふたを開けて抱き上げたら、お尻の周りが汚れていた。
お腹やお尻を拭くと、嫌がってピクッと動いた。
覚悟はしていた。
この2日、ずっと考えていた。
ちぃは手のひらの中で、最後の最後まで懸命に動いた。
1時間弱、私の手のひらで懸命に動いた。
すごい、すごい、生命力だった。
すごい、すごい、強い子だった。
また元気になるんじゃないかと、本気で思った。
懸命に手をあげ、頭を動かし、口を開けて、
何かを伝えようとしているようだった。
懸命に励ましているようだった。
私を。
かぁちゃん、おいらがいなくなっても、がんばれ!
まけんじゃ、ないぞ!
強くて、優しくて、いつも見守ってくれた。
そう、見守っていたのは私じゃなくて、ちぃの方だったんだ。
頼りない、危なっかしいかぁちゃんを、
いつも見守り、慰めてくれていたのはちぃだった。
2年9ヶ月。
この年齢を聞いて、みんな「その子は幸せものだ」って言うけれど、違う。
幸せだったのは私の方。
小さな命は私のかけがえのない幸せだったんだ。
コロコロが大好きで、猛ダッシュをしていたちぃ。
掃除中に、外付けの砂場にダイブしようとしてその穴からまっ逆さまにコタツ布団に落っこちて、きょとんとしていたちぃ。
うんていが得意で、クルクル回る技まで見せてくれたちぃ。
人一倍警戒心が強くて、ドライヤーを使うとすぐに起きてきたちぃ。
寝床の小屋の小窓の周りをガジガジしては、第2の出入り口にしてしまったちぃ。
回し車を夜中にシャーシャー鳴らして大暴走していたちぃ。
夜中に脱走して、玄関の靴の中で背中を汚して丸まっていたちぃ。
水を飲む時、派手な音を鳴らしてしょっちゅう私を起こしていたちぃ。
いとおしい ちぃ。
明日からゲージの掃除をしなくてもいいって思うと、切ない。
ちぃのための暖房を切った部屋が、寒い。
私はちぃとぽぅが来る前、どんな生活をしていたんだろう。
この小さな命に触れ、私は何ができたんだろう。
懸命に生きる姿を見せてくれたちぃとぽぅに、私は何ができたんだろう。
ありがとう、ちぃ。
ありがとう、ぽぅ。
頼りないかぁちゃんだったけど、ちぃとぽぅのことが大好きだよ。
愛してるよ。
私はもっと強くならなきゃ。
もっともっと優しくならなきゃ。
もっともっと、もっともっと、懸命に生きなきゃ。
ちぃとぽぅに恥ずかしくないように。